
DR サッサー
私事であるが、5年前より365日、毎日、洗顔後にSPF46(紫外線B波遮断指数)のサンスクリーン剤化粧品を塗って家族より気色悪るがられている。皮膚の老化を少し気にしてという理由もあるが、なにより鼻の右横に突然でてきたホクロへの皮膚癌対策という真面目な動機からである。だが、意に反して老人性色素斑は取れるし、患者さんから”先生の肌はきれい”と誉めたたえられることになり、説得ある遮光剤効果の実例として日々の診察に生かしている。
さて、二酸化炭素による地球の温暖化やフロンガスによる大気圏オゾン層の破壊など地球環境の悪化が問題となっています。地球上の生物にとって太陽はかけがえのない「生命の母」であり、無限の恩恵をもたらし、崇められ、信仰の対象にもなってきた。
一方、紫外線は人間にとって皮膚の老化を早めたり、皮膚癌をひきおこす有害な一面をもつこともよく知られている。大気圏オゾン層の破壊は、有害な中波長紫外線(UVB)の防御帯を破壊することを意味します。
日本は世界で最も高齢化の進んでいる国ですが、高齢化に伴う皮膚癌の増加が問題となっており、オゾン層破壊による紫外線発癌との関連が注目されています。「紫外線と皮膚癌」の最近の話題と動向を知っていただく著となれば幸いと思います。
太陽光線のうち地表に届く光線は、波長の短い方から、紫外線(200-400nm)(3%の割合)、可視光線(400-800nm)(37%)、赤外線(800nm以上)(60%)があります。紫外線はさらにUVC(200-290),UVB(290-320),UVA(320-400)の3種に分けられますが、UVCはオゾン層によって吸収されるため皮膚に届く紫外線はUVBとUVAになります。
紫外線は波長によって光物理的性質や光化学的性質、光生物学的性質が異なります。皮膚に達した紫外線のUVBは表皮に、UVAは真皮にまで届きます。このうち、日焼けや、皮膚癌の原因となり皮膚に大きな影響を及ぼすのはUVBです。しかし、UVAも日焼け直後(5-60分後)におきる即時型黒化や、皮膚癌発生にも関与していることが明らかにされています。最近のサンスクリーン剤には従来のUVB遮光剤に加えてUVA遮光剤を配合した製品が主流になっていることはよくご存知でしょう。
「紫外線がなぜ発癌の原因になるのか」については、現在、二つの発癌機序が考えられている。
(1)UVBによる細胞遺伝子・DNAの損傷
UVBが表皮の一番下にある基底細胞のDNAに吸収されて、産生されたピリミジン二量体がDNAを損傷する機序と、UVB,UVAが産生する活性酸素がDNAを損傷する機序とが考えられている。
(2)UVBの免疫機能抑制
正常な生体には、このように損傷された変異細胞を修復する機能があるが、紫外線はこの変異細胞を異物として認識する免疫監視機構を抑制して、修復機能や排除機能を抑制してしまうのです。
日本における46大学の皮膚癌の統計では、基底細胞癌(31.5%)が最も多く、2位が有棘細胞癌(27.8%)、3位は悪性黒色腫(8.6%)の順位であり、この上位3種の皮膚癌で70%近くを占める。
これら代表的な3つの皮膚癌のほかに、癌前駆症といわれる表皮内癌があります。頻度が高くよく知られているものは、日光角化症とボーエン病です。これらは表皮内癌であるとはいえ進展すると有棘細胞癌へ移行し、転移を起こすこともあるので皮膚癌として対処しなければなりません。
ボーエン病を除いた、基底細胞癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫、日光角化症は、その90%が顔面、頚部、手背の露出部位に発症するので、紫外線が発癌に強く関係していると考えられています。
地球上に降り注ぐ紫外線は、「紫外線量が多く」なる「緯度が低い」ほど「皮膚癌発生が増加」しています。 皮膚癌発生率は人種間で差があり、統計的に白人、黄色人、黒人種の順番で多くなっています。人種間の発生率の差は、主に皮膚色を決定するメラニン色素の量的な違い(メラニン色素が少ないほど皮膚癌になりやすい)が紫外線発癌の大きな要因と考えられます。
皮膚メラニン色素量の少ない白人種は、紫外線による皮膚癌発生のハイリスク・グループであり、オゾン層破壊現象は大きな関心事となっている。
皮膚腫瘍の診断は、通常、「臨床診断」と「病理組織学的診断」の二つの面から検討します。
「臨床診断」
視診によって、病変の部位、皮疹の分布(単発、多発、限局、汎発)、個疹の大きさ、形、色調、表面の性状、隆起の状態、浸潤、硬さ、境界、可動性などを観察して、最も考えられる疾患(鑑別診断)をピックアップします。また、所属リンパ節についても観察しなくてはなりません。
「病理組織学的診断」
次に、診断を確定するために病理組織学的検査をしなければなりません。
(biopsy・バイオプシーといって皮膚疾患の最も特徴的な病変が現れている部位を部分切除して病理組織学的に診断する検査)がよくおこなわれます。しかし、悪性黒色腫の場合は、部分切除は転移のきっかけとなるので皮膚生検は原則禁忌とされていますので注意が必要です。
皮膚腫瘍は悪性度によって良性腫瘍と悪性腫瘍および癌前駆症(表皮内癌)に分けられますが、その悪性度と皮疹の大きさ、部位などによって病理組織学的検査の方法が異なります。
(1)全切除が可能(小さい、切除しやすい部位)/全切除病理診断
(2)全切除が不可能 (大きい、全切除を患者が希望せず他の治療方法が可能な場合、切除しにくい部位)/部分的生検(incisional biopsy)
全摘出切除術が必要。手術の切除範囲は悪性度によって病変部辺縁より5mm〜1cm〜5cm離して行う。術中に病変部周辺皮膚の悪性化を調べるために数箇所を生検して凍結迅速標本を作成し、その結果によって切除範囲を決める場合もある。
注)良性、悪性腫瘍のどちらの場合でも、必ず「写真撮影」と「病理組織診断」が必要。
わが国で最も多い皮膚癌です。腫瘍細胞の悪性度が低いので基底細胞上皮腫と表現されることもあります。幸いに進行が緩除であり、顔面に好発するので、早期発見、早期治療の機会が多い。近年、人口の高齢化に伴い増加しており、さらに加速するといわれています。発症年齢は、50歳代より急増し70歳以上の発症頻度が高くなります。性別は男性が女性よりやや多くなっています。
好発部位は顔面で80%を占めますが、とくに、下眼瞼、鼻、頬、上口唇の「胎生期顔裂線に一致」して多くみられます。この発症部位と、顔面の紫外線が当たりやすい部位とが一致しないため、「紫外線と基底細胞癌との関係は否定できないが有棘細胞癌に比べれば、はるかに影響は少ない」と考えられています。
しかし、「顔面に好発する」、「高齢者に高頻度」、「白人に多く、黒人には希」という事実から紫外線との関連は無視できません。
皮疹の特徴は、「黒い腫瘍」であることと、進展すると「潰瘍」を伴うことです。ホクロ状の丘疹から始まりますが、しだいに大きくなり結節となります。
(注)日本人では80% が黒色調を示すが、白人では30%しか黒色調を示さない(黒くない基底細胞癌もある)。
● 治療
外科的腫瘍摘出が原則である。インフォームド・コンセントは、患者の不安を取り除く一方で、骨まで侵すほど局所破壊性が強く、放置により予後不良になる可能性もあることをバランスよく説明しなければなりません。
基底細胞癌よりやや頻度の少ない皮膚癌であるが悪性度が高く転移をおこすこともあるので慎重な対応が必要です。熱傷や慢性放射線障害、外傷後瘢痕、日光角化症、ボーエン病などの前駆病変から発生する場合が30%にみられます。転移をおこすと予後不良になるので発見しだいできるだけ早く治療を開始しなければなりません。発症年齢は40歳代よりみられ高齢になるにしたがって発症頻度が高くなり近年増加しています。性別は男子のほうが女子よりやや多くみられます。好発部位は顔面、頭部で30〜50%を占め、露出部位に多くみられます。北海道、東北地方より、九州地方の発症率が高いことから紫外線との関連が強いとされます。 また、人種間で発症率の違いがあります。ハワイ・ホノルルの白人種の罹患率は0.28%ですが、日系人は0.007%というデータがあります。
症状は小丘疹や浸潤性紅斑として始まり、しだいに大きくなり腫瘤となり潰瘍もみられます。進行すると二次感染を伴って悪臭(癌臭)があります。
● 治療
手術療法が原則ですが、凍結外科療法や抗癌剤の局注や外用療法もおこなわれます。進行すると、放射線療法や化学療法、免疫療法など集学的治療をします。
早期に遠隔転移を起こしやすく最も悪性度が高い皮膚癌です。近年、世界的に急増しており、日本での年間発症者は200名といわれ、やはり増加しています。決して希な疾患ではありません。
発症部位は足底が最も多く、指爪甲下、下腿、眼粘膜の順位で多くなっています。足底に多いことは日本人に特異的とされ全症例の25%を占めます。足底は目に触れる機会が少なく、自覚症状もないので発見が遅れがちになります。みなさんも一度、自分の足の裏をみてみましょう。
通常、腫瘍は黒いが、黒くない無色素性黒色腫があるので注意。 不用意な生検はしてはならない。発症のきっかけになるものは母斑細胞母斑(ホクロ)が多いとされ30〜40%にみられます。
この疾患も、人種間で発症頻度に差があります。紫外線の強い地域に住む白人種に一番多く、黄色人、黒人の順位となっています。
● 治療
病期によりますが、腫瘍辺縁より2〜5cm離して広範囲切除し、下床は筋膜まで切除します。リンパ節郭清、化学療法、免疫療法が適時おこなわれます。皮膚原発より粘膜原発のほうが予後が悪くなります。
悪性黒色腫かどうかを判定するポイント・ABCD
A(asymmetry)(非対称な形)
B(border)(皮疹辺縁の境界が不鮮明、にじみ現象)
C(color)(色調の濃淡)
D(diameter)(直径6mm以上)
老人性角化症ともいわれ癌前駆症のひとつである。紫外線が発癌の強い要因と考えられている疾患のなかで最も顕著に増加している。 発症年齢は、50歳代よりみられるが、70歳以上に圧倒的に多い。性別は女子に多い。 発症部位は、顔面(80%)、頭部、手背など日光曝露部位に発症する。
症状は、淡紅色から褐色色素斑で、かさぶた状の鱗屑(固着性鱗屑)を伴うことがある。自覚症状はあまりないので病識がない。悪化して有棘細胞癌(20%)になることがあるので慎重に対処しなければならない。
● 治療
外科的切除が望ましいが、液体チッソによる冷凍凝固法でも可能である。ときに、抗癌剤含有軟膏(5FU、ブレオマイシン)が使用される。
幸いに、皮膚癌は進行が緩除なものが多く、また、かんたんに目に見えるので、早期発見、早期治療の機会が多いことが他の内臓癌と違う点でしょう。
しかし、皮膚癌全体でみると、基底細胞癌のように数年かかって進行するものから、悪性黒色腫のように早期に遠隔転移をきたす悪性度の高い皮膚癌も含まれるので、それぞれの皮膚癌の性質に応じた「幅の広いインフォームド・コンセント」が必要となります。
緩除な性質を持つ皮膚癌では、とくに高齢患者の場合には、自覚症状、他覚症状が軽微なために病識がなく、治療への意欲が減退し、手術への説得が困難なことがよくあります。
そのうえに、患者の不安を取り除くために「十分に間に合う、心配ない」という過剰な「安堵的説明」が、さらに治療への意欲をなくす結果になるので、不安を取り除く一方で、放置すれば予後不良になる可能性もあることをバランスよく、インフォームド・コンセントしなければなりません。
紫外線曝露部位には発癌の素地があり、病変部以外の皮膚癌の発症に注意をしなくてはならないので手術後も定期的な受診が必要です。発症予防対策として遮光剤(サンスクリーン剤・SPF20以上)の常用や、衣類(色の濃い衣服、襟の詰まったデザイン、長袖)、傘、帽子(7cm以上のつばの長いもの)など紫外線防御対策を指導します。
高齢化社会が加速的に進行していますが、「加齢と発癌」という回避できない医学的事実のなかで、皮膚癌あるいは皮膚癌前駆症も確実に増えています。 一方で、オゾン層破壊による「紫外線と発癌」という地球規模、人類史上の新たな問題もでてきました。医療に携わる者(とくに医師)が医療を独占する時代は過去のものとなりました。患者の権利が増し、「医療の主役は患者である」という認識のもとに、患者と医療従事者相互が不平等な立場にならないような、「心の通ったインフォームド・コンセント」をしたいと思います。
フロンガスの大気圏オゾン層破壊による紫外線皮膚癌の増加や、アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患が増えた原因は、自然を破壊し、自然に逆らってきた「現代文明と現代医学」への、否、「傲慢な人類」への「自然の報復」ではないかと考えている。
参考文献
Skin Cancer Vol.8.9. No.1.3 1994(Special Issue)
Skin Cancer Vol.10 No3 1995
堀尾武:光皮膚科学、田辺シンテックス、1993
市橋正光:臨皮、47(5増):73−79、1993
山村雄一ほか:現代皮膚科学大系、Vol9、上皮性腫瘍、中山書店、1980
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