グレープフルーツジュースと薬の飲み合わせ
最近注目されるようになった「薬の飲み合わせ」による副作用の発現は、2種類以上の薬を同時に、または同時期に飲んだときに起こる。この典型例はソリブジン薬害で、抗癌剤5FUが代謝されて 不活性化される過程を、ソリブジンの代謝物が阻害したのが原因であった。薬物代謝酵素が阻害され ると活性未変化体の血中濃度が高くなり、薬理作用が増強したり副作用が発現したりする。このように、薬の併用により、一方の薬の血中濃度が異常に高くなるのは、薬物代謝酵素の「阻害」による相互作用と呼ばれる。阻害を受けた薬の血中濃度が上昇するが、臨床的に問題となるのは、フルオロウラシルのように血中濃度の安全域が狭く、重篤な副作用が発現する場合である。
最近、グレープフルーツジュースの飲用が薬物との相互作用を起こすことを示す報告が相次いでいる。グレープフルーツジュースが薬物の経口生体利用率を顕著に増大するという興味深い事実は、今から約10年前、フェロジピン(ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)とエタノールとの相互作用を 検討中に、エタノールの味を隠蔽するためにグレープフルーツジュースが使用され、偶然に発見 された。
その後、グレープフルーツジュースが境界型高血圧患者のフェロジピンの平均血漿中濃度―時間 曲線下面積(AUC)を水で服薬したときの約3倍に上昇させることが示され、臨床的にも降圧効果 や心拍数増加の程度が大きく、血管拡張に起因する副作用の頻度も多くなることが報告された。 グレープフルーツジュースはフェロジピンの最高血漿中濃度(Cmax)を有意に上昇させたが、消失半減期(t1/2)には変化は認められなかった。フェロジピンの静注投与時には グレープフルーツジュースによる薬物動態の変化がみられないので、グレープフルーツジュースの作用は、薬物が循環血中に入る前段階での代謝阻害によるものと考えられた。
グレープフルーツジュースの影響を受ける医薬品
薬品名 | 製品名 |
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ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬 | ニソルジピン、フェロジピン、ニカルジピン、ニトレンジピン、ニフェジピンなど |
中枢作用薬 | ベンゾジアゼピン系催眠鎮静剤(トリアゾラム、ミダゾラム)、カルバマゼピン、ジアゼパム |
HMG-CoA還元酵素阻害薬 | ロバスタチン、シンバスタチンなど |
免疫抑制薬 | シクロスポリン、タクロリムス |
抗アレルギー薬 | テルフェナジン、アステミゾール |
HIVプロテアーゼ阻害薬 | サキナビル |
その他 | シサプリド、ベラパミル |
グレープフルーツジュースとの相互作用が問題となる薬はCYP3A4で代謝される薬である。最もよく研究されているのはジヒドロピリジン系Ca拮抗薬で、これらの代謝経路は類似しているが、生体利用率は各薬間でかなり異なる。生体利用率の低いニソルジピンが最も グレープフルーツジュースの影響を受けやすく、次いでフェロジピン、ニカルジピン、 ニトレンジピンで、ニフェジピンやアムロジピンへの影響はわずかである。このように初回通過効果が大きい(生体利用率の低い)薬ほどグレープフルーツジュース飲用の影響が大きくなることが知られている。生体利用率が低いジヒドロピリジン系薬では個人の相互作用の予測も困難で、個体差もニソルジピンが最も大きい。なお、同じニフェジピン製剤でも 腸溶性製剤ではやや影響が大きくなる。
これらのジヒドロピリジン系の薬以外に、20種類以上の薬物がグレープフルーツジュースと臨床的に問題となる相互作用を示すことが確認され、今も、次々と臨床試験の成績が発表されて いる。わが国で市販されているCYP3A4で代謝される医薬品で、臨床的に問題となるグレープ フルーツジュースとの相互作用が分かっているものに、テルフェナジン、サキナビル、 シクロスポリン、ミダゾラム、トリアゾラム、ベラパミルなどがある(表)。 一般に肝CYP3A4活性を阻害するイトラコナゾールやエリスロマイシンとの併用により有意に 血漿中濃度が増加する医薬品では、グレープフルーツジュースによって血漿中濃度が増加する。 シサプリドやアステミゾールもグレープフルーツジュースの影響を受ける。CYP3A4 活性阻害薬を併用してもその影響をあまり受けない医薬品では、一般にグレープフルーツ ジュースの影響も少ないと考えられる。
最近、HMG-CoA還元酵素阻害薬のうち、水溶性製剤とCYP3A4の代謝基質となる 脂溶性製剤について、グレープフルーツジュースの影響を調べたいくつかの報告がある。 水溶性製剤の服用にグレープフルーツジュースを用いてもその薬物動態は影響されないが、 CYP3A4が主代謝酵素である脂溶性製剤をグレープフルーツジュースで服用すると、 程度の差はあるが血漿中濃度は水で使用した場合より有意に増加(AUCで1.4~15倍)する。
文責:DRサッサー